EMIT-Japan WebCT レター

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【WebCT活用事例】九州大学 井上仁先生・多川孝央先生

 今回のWebCT活用事例は、九州大学情報基盤センター・学術情報メディア研究部門の井上先生と多川先生をご紹介させて頂きます。
 井上先生と多川先生は九州学内でのWebCTの利用を推進される立場にあり、過去にご紹介させて頂いた先生とは異なった視点をお持ちです。井上先生は、「どんなよいシステムでも、システムを導入しただけではダメで、各部局と一緒になって、教育支援することが必要。」と部局間連携の重要性を強調されます。先月ご紹介させて頂きました平野先生のように、WebCT の利用に大変熱心な先生がいらっしゃるのも、井上先生らの熱心な普及活動の成果なのだと思います。

 先月号のWebCTレターの【WebCT活用事例】九州大学 平野(小原)先生の記事の中でご紹介させて頂きました通り、井上先生と多川先生は九州学内でのWebCTの利用を推進される立場にあり、過去にご紹介させて頂いた先生とは異なった視点をお持ちです。

   井上先生、多川先生のいらっしゃる学術情報メディア研究部門では、2001年頃から九大でもe-learningを行う準備をするために、先生方自身で情報収集なさっていたところ、国立大学情報処理教育センター協議会で名古屋大学情報メディア教育センター作成のWebCTのビデオをご覧になり、また名大でWebCTのワークショップに参加されたことがWebCTを導入されるきっかけだったそうです。
 導入に際しては、トップダウン式にすぐに決まったわけではなく、学内の教育研究のための資金援助制度を利用して「eラーニングシステムを利用した学内教育基盤整備のためのモデル講義の構築」というプロジェクトを立ち上げ、教育を担当する部局との協力のもとに環境を整えノウハウを蓄積していかれたとのことです。

 井上先生は、「どんなよいシステムでも、システムを導入しただけではダメで、各部局と一緒になって、教育支援することが必要。」と部局間連携の重要性を強調されます。このような井上先生らは、単にインフラの整備にとどまらず、コンテンツ作成、教授法、使い方の相談にものっています。先月ご紹介させて頂きました平野先生のように、WebCTの利用に大変熱心な先生がいらっしゃるのも、井上先生らの熱心な普及活動の成果なのだと思います。
 このように、学内での普及に関してはキーパーソンを探すことが重要とおっしゃいます。学内で広げてくれそうな先生を見つけて、一緒にやりませんかという形をとる。その先生をしっかりサポートし、WebCTに詳しくなって頂くと、その先生がリーダーになって周りの先生にも広まっていくようです。

 では、実際の先生方の普及活動について、

  • 現在の活動内容
  • 活動の成果
  • 普及活動における問題点とその対策
  • 今後の展望

という構成でご紹介させて頂きます。

 なお、今回ご紹介させて頂きます九大におけるプロジェクトの詳細につきましては、eラーニングシステムを利用した学内教育基盤整備のためのモデル講義の構築 からご覧頂けます。

現在の活動内容

共通基盤の整備

まずは、共通基盤の整備です。WebCT導入前は、独自にeラーニングツールを導入している学部があったようですが、前述のプロジェクトを契機として、全学的に利用可能な共通の環境としてWebCTを導入なさいました。


図1 共通基盤の整備 (「2004日本教育工学会発表資料より抜粋」)

この共通基盤の整備によって、以下のようなことが可能になるとおっしゃいます。

  • 統一的な操作環境
  • 管理負荷・作業負荷の削減
  • 環境・機材の共用、有効利用
  • 学内の電子化されたシラバスや時間割との連携
  • 教育コミュニティの形成

講習会の実施

 まずは、情報基盤センター主催で、講習会を年数回、初級と中級に分けて、実施されています。講習会の内容としては、WebCTの紹介と、コンテンツ作成の2種類があり、1回の講習会は90分×2の3時間くらいだそうです。毎回ご自分たちで作成されたテキストを作って配布されています。

WebCTを利用したサンプルコースの作成

 WebCTを利用したサンプルコースの作成を先生方に見て頂き、実際の利用イメージを具体的に持って頂くようにする。 例えば、医学部であれば、医師国家試験問題をWebCT上で作り先生にサンプルを見せる。法学部については司法試験の問題を作るといったように、各学部に合わせて問題サンプルを作って紹介する。

サポート窓口の設置

 学内向けのサポート窓口を設置され、基本はメールでの対応ですが、電話でも受付ける体制。ただ、直接行って教えた方が早い場合は、キャンパス内であれば訪問されることもあるようです。井上先生と、多川先生のお二人で対応されています。

研究会・後援会の開催

 eラーニングの学内の意識を高めるために、情報基盤センターが主催で外部の講師を招聘して講演会を開催。「e-Learning研究会」の開催。

報告書・事例集の作成

 報告書ではプロジェクトの活動について。全体のプロジェクトのプランと事例の報告。 事例集は、WebCTの概要説明、実際に授業実践されている先生の事例紹介。個別の事例について、WebCTのどの機能を使っているかなどの情報を提供。

学内外への情報提供活動

 eラーニングの普及活動を通して得られた知識・経験をさまざまな形で公開し、学内および他大学へのeラーニング導入・実施への貢献をされています。更に、CSKセミナー、New Education Expo2003、他大学において、九大のeラーニングの実施状況について情報提供される事により多大の貢献を行っておられます。

活動による成果

先生方が取り組んでこられたプロジェクトにより、どのような成果があったのかをお聞きしました。

まずは、

教育の場の拡大と教育の質の向上

 具体的には、
  • 教官と学生の意見交換が活発化した
  • 講義内容の復習を反復するようになった
  • 授業時間以外の利用、学外からの利用
といった効果が表れたとおっしゃいます。

共通基盤整備の効果

 学内をWebCTという共通基盤で整備することにより、学生は統一的な操作環境で利用可能となり、余計な操作を覚える手間が省ける。また、WebCTを利用した教官同士の教材を相互参照することによる、教材の質の向上。WebCTを通して、部局を超えた教育コミュニティの形成。また、WebCTユーザー会を通じ、他大学の教官同士の交流も生まれるとおっしゃいます。

授業以外への適用

 WebCTを、授業以外の自主学習用として利用。全学生を対象に「教育用計算機システム利用のための自学システム」を構築。

プロジェクト外での組織的利用

 学内のプロジェクトを発足させたことにより、複数部局による協力体制というモデルの有効性が実証されたとのことです。プロジェクト主催で研究会を実施することで、WebCTプロジェクト外への認知が促進され、これによりいくつかの部局において、WebCTを基幹情報システムとして検討する動きがあるようです。

今後の課題とその対策

 井上先生、多川先生はeラーニングを利用した教育の推進を通して、以下の課題を挙げておられます。
  • eラーニング推進スタッフの不足
  • コンテンツ作成

 ここまで紹介させて頂いた活動は非常に多岐にわたっておりますが、これらは全て井上先生と多川先生のお二人で頑張ってこられました。
先生方はまず一つ目の問題として、スタッフが少ないことを挙げられます。 講習会などのWebCT利用のための事前教育の後は、実際にWebCTを利用する際に発生した問題に対して即応かつ的確な対応が求められます。
 しかし、利用者の方々は情報リテラシーの格差、多種多様な文書ファイル(pdf,word,excelなど)の支援情報、更に異なったOS、異なったバージョンのブラウザからの操作と言った、非常に幅広い問題があるとおっしゃいます。
また、お二人はWebCT専属ではないため、他の仕事で多忙、かつ不在の場合もあり、対応がとても大変とおっしゃいます。

 そこで、井上先生らは、このような人材不足に対処するため、WebCTシステム利用者の知的支援システムの構築を進めてらっしゃいます。
これは、

  • eラーニングシステムの操作情報の蓄積機能
  • 蓄積されたファイルに対する自由形式のキーワード検索機能
  • eラーニングシステム利用の状況判断機能
  • 検索結果を絞り込んで利用者に提供する機能

 また、2つ目の課題として、教材の作成に関する問題を挙げていらいっしゃいます。 WebCT自体は、様々な教授法、コンテンツを搭載するための基盤システムであり、重要なのはWebCT上で、どのようなコンテンツを作成し、どのような講義を展開していくかにあります。
 教材作成の過程で、コース管理システムで効果的に教育を行うための教材を作成するには、入念な準備と多くの作業が必要であることが、プロジェクトメンバーに共通の認識となったとのこと。このため、「教育内容の再検討」「コンテンツ作成の実作業を支援する人員の配置」という問題意識が浮上したとおっしゃいます。

そこで、上記問題の対処策として、

  • 授業を担当する教官とは別に、教材作成の実作業をする、あるいは教官の作業を支援する人員を配置する
  • 教材作成を個人ではなく、集団で、相互に支援しながら行う。

 同じ教科であるのに、担当教官が異なるために個別に資料を準備しているのは効率が良くない。これを同じ教科を担当する複数の教官が協力し分担することにより、作業の軽減が可能となる。

井上先生、多川先生は、このようなコンテンツ作成の効率化を学内のみでなく、さらに大きく、大学間連携により解決していこうというプロジェクトに参加されています。広島大学の安武先生、隅谷先生、稲垣先生、名古屋大学の中島先生、福井県立大学の山川先生たちとご一緒に、井上先生、多川先生が進めておられます、コラボレーション型教材開発環境「CELO」(コラボレーション型教材開発環境「CELO」)これは、誰でも参加可能なオープン・ソースモデルであり、その他に、

  • 時間的、空間的制約を受けないコラボレーション型開発環境
  • バザール方式の採用
  • コンテンツのモジュール化
  • といった「分業の利益」に基づいているようです。

このように、井上先生と多川先生は、これから多くの大学が学内でのeラーニング推進においてかかえる悩み、「eラーニング推進スタッフの不足」と「コンテンツ作成」の2点を、大学間の連携で解決しようとなさっています。この場をお借りして、先生方を活動をご紹介させて頂き、この趣旨に賛同されたより多くの大学が、このような取り組みに加わって頂ければ大変うれしいことです。

今後の展望

 すでに、上記の「課題とその対策」にて、九大における先進的な取り組みをご紹介させて頂きましたが、その他、幅広く今後の展望をお聞きしました。

「今後、教育環境にITが入ってくるというのは当たり前のことでもう避けることはできない。むしろ、社会の中で一番遅いのが教育ではないか。ITに対応した教育対応が必要である。」とおっしゃいます。 しかしながら、現状ではITに対応した教育対応をどうするか、考えられていないため、大学の組織でビジョンを持って考えるところがあると、サービスを提供しやすいとおっしゃいます。 また、大学に望むこととして、

  • 学内の事例を集めた研究会を開いている。本来、システム基盤管理者である先生方の立場ではやりすぎのところであり、そういう場に教育関係のプロがいて欲しい。
  • コンテンツの作り方を教えても、実際作る場面で苦労が多いため、TAの制度の活用に期待している。

ということを挙げられます。
また、システムとしては、熊本大学のような学務情報システムとの連携、名古屋大学のような大学ポータルとの連携もご検討中とのことでした。

一先生としての井上先生から

 井上先生は、このように大学の基盤システムを手がけられる一方で、ご自身でも講義を受け持ってらっしゃいます。
今回の基盤システムの観点からはちょっとずれますが、最後簡単にご紹介を。
先生は、WebCTを3年使っておられ、毎年どんどん手を加えており、講義の直前まで準備されているそうです。
レポートを提出させて、他人のレポートを採点させ、その採点も採用するといった使い方もなさっています。授業アンケートを取ると、準備状況など熱意に対しては評価があるとおっしゃいます。また、学生が勉強しいるのがよく分かるとのこと。しかし、WebCTの効果的な使い方、学習意欲をかきたてる効果的な提示方法は模索中と、基盤システムの管理ばかりでなく、一先生としても非常に意欲でらっしゃいます。

大変お忙しい中、インタビューに応じて頂きました井上先生と多川先生に、この場を借りて御礼申し上げます。ご協力ありがとうございました。

文責:エミットジャパン 小村道昭
(2004年 11月)