EMIT-Japan WebCT レター

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【WebCT活用事例】福井県立大学 山川 修 先生

今回のWebCT活用事例は、福井県立大学情報センターの山川先生をご紹介させて頂きます.今回のテーマは「学習の可視化とその活用」です.

 山川先生のいらっしゃる福井県立大学は,福井キャンパスと,小浜キャンパスという120km離れた2つのキャンパスがあり,1992年の大学設立当初から,両キャンパスを結んでTV講義による遠隔講義を実践されていました.
 大多数の学生は福井キャンパスで学ぶため,対面式の授業は福井キャンパスが中心となり,TV会議システムを利用してその講義が小浜キャンパスに中継されていました.パソコンの都合でTV講義が不可能な科目については,小浜キャンパスの学生が不利益を被らないよう,Web Based Training(WBT)の手法を用いた講義を実施なさっていました.
 WBTでは開講時のスクーリングに始まり,質問専用のML,演習資料のWebへの掲載,Webによる課題の提出など,WBTを用いた先生方の熱心な取り組みがあったにも関わらず,学生の多数が意欲低下により最後まで演習を遂行できずに終わってしまっていたようです.
 WBTには学生の意欲を持続させるサポートシステムが不可欠という認識から,WebCTの各種コミュニケーションツールが,教員と学生のコミュニケーションをサポートするものとして期待され,導入に至ったという背景があります.
 WebCTの最初の導入時には,大学の情報システムとしての予算からではなく,関連する先生方にお願いして,年度末に研究費を出していただき購入されたというご苦労もあったようです.
 その後は,福井県で作られたギガビットクラスの情報スーパーハイウェイを使って,2キャンパスをIPでつなぎ,従来の専用線によるTV会議システムからIPベースへのシステムへと更新するプロジェクトの一環としてWebCTが利用されています.

WBTからWebCTへ

 このように福井県立大学では,設立当初からのTV会議システムやWBTを用いた遠隔地教育を実践されていたわけですが,WBTからWebCTに移行された時の先生方の評価はどうだったのでしょうか?
◎実際にご利用なさった先生方の,ご意見を一部ご紹介します.

  1. 課題ツール
     従来から行っていたメールを使った課題の提出に比べると,提出した学生とそうでない学生が一覧できる点,提出期限と回数の設定ができる点が便利である.課題閲覧の開始/終了時刻を設定できることにより,オンライン試験が実施できた.さらに,課題を採点結果やコメントを学生がすぐに見られることも大変よい.
  2. テスト&アンケートツール
     学生の相互評価のために,テスト&アンケートツールを利用したところ,従来のメールを使った方式に比べて,大幅に教育の負担が軽減した.また,採点結果のヒストグラムや統計情報がすぐに表示されることも便利である.

 このようにWebCTの導入により,教員の処理軽減という改善が見られた反面,当時はWebCTのStanadard Editonということもあり,使い勝手が不便な点が見受けられたそうです.

学習の可視化

 以下では,本記事のメインテーマである「学習の可視化」についてご紹介します.
 山川先生にWebCTの便利な点をお聞きしたところ,「学生の学習の動向が分かるのが一番よい.全体的にどうやって学習しているかが,アクセス記録を分析することによりわかります.さらに,複数回受験ができるオンライン試験のときなどは,点数の時間分布の変化をみることにより,ある程度不正行為があるかどうかも推定できる.」とおっしゃいます.
 また,第2回WebCT研究会の発表では,「CMSを使うことにより始めて可能になることの一つは,『学習の可視化』である.これは,CMSを使わない授業においては見ることができなかった,授業中または課外における受講生の学習行動を,CMSに記録された学習履歴情報を分析することにより可視化しようとする試みである.」と述べられており,WebCTの標準機能を使った解析だけにとどまらず,独自にサーバーのログ解析を行われ,学習履歴の分析を行っていらっしゃいます.また,同様な研究をなさっている隅谷先生@広大のapache解析にも大変興味をお持ちです.山川先生,隅谷先生のログ解析の詳細につきましては,日本WebCTユーザ会のページをご参照下さい.
 このように山川先生は,WebCTを導入以降,いくつかの授業においてCMSを利用された結果,システムの履歴情報により学生の学習行動の可視化ができる点,WebCTのコミュニケーションツールに注目なさっています.
 山川先生はCMSの活用に関して,「CMSを導入したという組織の担当者に話を聞くと,『CMSを活用するためにはコンテンツを作らなければならない』という答えが返ってくることが多い.また、『CMSを使ったeラーニングが実施されるようになったら,教員が必要なくなるのではないか』という話もよく聞くが,この2つは同じ誤解,すなわち『eラーニング = コンテンツ作成』という誤った図式に基づいているのではないか」とおっしゃいます.
 そして,eラーニングにおけるコンテンツの重要性は十分に認められた上で,それ以外の可能性も沢山あるのではないかと提言され,その可能性の1つとして学習の可視化を挙げておられます.
 山川先生が実践なさっている学習の可視化の一例のとして、以下の図をご覧下さい。


図1.課外総閲覧時間,回数と成績の関係

オレンジ色の○は「優」の学生,水色の△は「良」の学生,緑色の□は「可」の学生,赤色の×は「不可」の学生

 点数の時間分布をみていると,全体的にどうやって動いているか,不正があるかどうかが分かるとおっしゃる言葉の通り,上記の分布から以下のようなことが読み取れます.

  • 優と良を比較した場合
    学習の継続性という意味では同程度であるが,1回あたりの学習時間が差となって表れる.
  • 良と可の学生を比較した場合
    トータルの学習時間は同程度であるが,学習の継続性が良と可の差となって表れる.
  • 不可の学生
    学習時間が短く,継続性もない.
  • その他
    表の左隅にいる可の学生は,学習時間も短く継続性もないが,可を取得している.とても優秀なのか,もしくは助けを借りたのか?

 などなど,表の全体分布から面白い情報が読み取れます.もちろん,毎日沢山勉強すれば優が取れると漠然したイメージを語ることはできますが,このように結果を分析することで,より詳細な説得力のある結果を得ることができる点が非常に素晴らしいとこだと思いました.

授業改善

 また,山川先生の「学習の可視化」の利用は,上記の学習活動の解析だけに止まりません.「eラーニングはコンテンツも重要だが,同時に,可視化,記録も重要だと考えている.記録はJABEE認定だけのためではなく,先生方のコラボレーションの時に重要である.福井県立大学の情報教育では複数の教員で同一の科目を担当しているが,その場合にWebCT上の資料は非常に有用である.WebCTの記録を基に複数の教員で現状分析と今後の対応を検討しながら授業を改善していく.」とおっしゃるように,授業改善に対する有効性を示唆されます.
 そして今後のCMSに関しては,「CMSは日本では利用が始まったばかりで,まだ利用方法やログの分析手法も確立しているとはいい難い.それゆえ,教育機関で使うCMSは,使っている先生方が新しい使い方を自分で組み込めるようでないと,発展は難しいかもしれない.」とおっしゃいます.

日本WebCTユーザ会

 また,山川先生は日本WebCTユーザ会の魅力について,「日本WebCTはユーザ会が非常に強力で,多くの情報が入ってくるのが幸せ.日本WebCTユーザ会に参加していなければ,CMSをここまで使い込まなかったと思う.ユーザ会のカンファレンスや研究会の発表を聞いて,使えそうだと思ったことを本学でも試している.」と,ユーザ会の充実ぶりを挙げられます.
 また,「教育関係の他の学会を見ても,eラーニングを研究目的で実施している人は多いが,実践の中で授業改善をする目的で実施している人はまだ少ない.以前は大学において,教育そのものが評価されることはなかったが,最近は評価されるようになってきたので,今後はeラーニングを実践する研究者も増えてくると思うが,WebCT研究会の実践報告は大変面白い.」と,ユーザ会の先生方の実践的な取り組みを高く評価されています.

学内での普及活動

 さて,山川先生は,ご自身でWebCTを活用した講義をなさっている一方で,情報センターに所属され,学内でのWebCTの普及にもご尽力なさっています.普及活動についてお聞きしました.
 山川先生のところでは,WebCTを使って授業をなさる先生に,学生のサポートをつけるというサービスを今年の4月から始められました.そして,サポートを受けられた先生方には,年度末に実施予定の,学内向けWebCTシンポジウムで発表してもらう約束になっているとか.この条件で,前期と後期あわせて7名の先生がWebCTの利用を始められましたが,年度末のシンポジウムを聞きに来られた先生方が,来年度からWebCTを使うようになることが期待されます.
 「学生は1年前期からWebCTを使っているので,使っていない先生に対してどうしてWebCTを使わないのかという要望が出され,それがきっかけで使い始めた先生もいる.」と,大学内でWebCTが普及していく過程についての面白い話もお聞きできました.
 ちょっと気になる学生アルバイトの時給は,学生のサポートで時給1000円だということです.

オンラインテスト

 山川先生は,WebCTを利用したオンラインテストにも力を入れておられます.これは,オープンな環境で学生に勉強させながらテストを何回でも受けさせ,毎回結果だけを公開する(回答は非公開)という方式です.つまりテスト受験時に勉強してもらうという方式であり,学生にとって大変刺激的だということです.
 「このような方式でテストを受験する場合,自分の力だけで問題を解かない学生が出てきますが,結果的に学生自身の理解が向上すれば聞くのもOKと考えています.このような方式のオンラインテストは,学生が今までやったことがなくて新鮮なので,好評です.勉強しながら何度でも受けられるのがいいと感想が学生の間からはでています.」と学生には大変評判がよいようです.一方で,問題を入手するために受験する人がいるという問題もあるようです.
 また,テストは何回でも受験できるようになっているので,この時の採用方法も重要です.従来は,複数回受験した場合の最高点を採用されていましたが,この方法だと,安易に受験してしまうということで,最高点から最新の点を採用する方式に今年のテストでは変更されました.これによって,学生の受験行動が変わってきたとおっしゃいます.
 ただ,最新点を採用する方式にすると,真剣に受けるという意味ではよいが,気軽に受験できないという点が問題になり,結局どういう条件でやったら一番学生のためになるかというところを試行錯誤中とのことです.このオンラインテストを学生がどういう時間間隔で受験したのか,どのように成績が上がっていったのかといったことが解析から分かるのは面白いと,ここでもやはり可視化を重視されています.

WebCTの便利なところ

 ここまで,学習の可視化という面で,WebCTの活用を紹介してきましたが,それ以外にも以下のような点がお気に入りとおっしゃいます.

  • 道具が色々とあって,必要に応じて,必要なものが選んで使えるのがよい.
  • ある先生がWebCT上で自分の講義ノート(ワードファイル)を公開したところ,学生がある程度の頻度で見ているとがわかり喜んでいた.
  • 課題提出ツール,テスト,掲示板をよく利用している.メール,チャットはあまり使わない.

 このように山川先生はWebCTを非常に有効に活用して頂いており,「もうWebCTなしで授業はできない.ワープロを使い始めると,手書きに戻れないのと同じ.」とおっしゃいます.
 また,山川先生は,常に学生の意見を吸い上げ,講義へ反映させることにご熱心です.毎回の講義のトピックを掲示板(ディスカッション)上に設けて,各回の講義について学生からの質問,感想などを記入してもらっています,そして,学生からの質問が多かった項目は次の授業で補足するようにされています.毎回の授業への反応を聞く際,WebCTを利用すると非常に処理が楽で,学生が他の学生の投稿を読めるのがよいとおっしゃいます.
 また,「WebCTによるアンケートでは,紙のアンケートよりも素直な意見が出ているような感じがする.その分きついことも書いてくるが,いい評価にしろ,悪い評価にしろ,いいところを見ていると思う.紙のアンケートは少しかしこまっているように思う.また,紙の場合に比べ学生が書く量も増えたように感じている.他の先生も同じような感想を持っている.」というのは大変面白い話です.
 WebCT導入による学生の変化をお聞きしたところ,福井県立大学では,1年生からWebCTを使っているので,利用した場合とそうでない場合の比較はできないが,学生はWebCTを利用することに対して抵抗は全くないとのことです.また,学生向けにWebCTの講習会はしていないが,情報基礎演習を半年受講する中でWebCTの利用についても慣れていくようです.

WebCTに望むこと

◎WebCTのヘビーユーザである山川先生に,WebCTに望むことをお聞きしました.
 「ユーザが作ったモジュールが組み込めるとよい.新しい使い方をしようと思った場合に,それができるかどうかは決定的に重要.CやPerlで書いたものをモジュールとして組み込めるような仕組みが必要.」と,WebCTの機能拡張性に関しての希望を頂きました.
 このように山川先生が機能拡張を希望される理由として,以下にご紹介するアダプティブラーニングがあります.

アダプティブラーニング

 アダプティブラーニングとは,“テストにより測った学生の能力に応じた教材を動的に提供する学習方法”と先生は定義されます.
 「アダプティブテスティングの方法論は既に確立しているが,それと教材を構造化したものをどのように結びつけるかについての方法論がない.このような教材の構造化は,非常に手間がかるので,この手間を如何に減らせるかがポイント.」とおっしゃいます.
 このようなシステムが実現するにあたり,全ての機能をCMS(Web)でまかなうということではなく,CMSにない機能は別サーバーで構築して,これをPDKで結びつけるという構想をお持ちです.このような意味で前述CMSの機能拡張性は非常に重要だとおっしゃいます.

WebCTの対投資効果

◎WebCT導入の,対投資効果についてお聞きしました.
 「とても難しい問題だ.3名しか利用していなければ割高だが,150名が利用すれば割安になる.投資効果は利用人数次第である.しかし,利用人数は便利だとわかれば次第に増えていく.インターネットも同じことが言える.大学にインターネットが導入された当初は,電子メールでさえも数人しか使っていなかった.これは非常に割高な状態である.しかし,徐々に利用者が増え,今ではメールが止まると苦情がくるほど皆さんが使うようになっている.CMSも同様で一度使い始めた先生は後戻りできない.これから数年たてば,CMSを使うのは当たり前になるだろう.」とおっしゃいます.
 福井県立大学では,来年からは1〜4年生までの学生全員がWebCT経験者になるそうで,WebCTを使わない先生に対しては,学生からつきあげがくるのではないかとおっしゃいます.

大変お忙しい中,インタビューに応じて頂きました山川先生に,この場を借りて御礼申し上げます.ご協力ありがとうございました.

文責:エミットジャパン 小村道昭
(2005年 1月)