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【WebCT活用事例】名古屋大学 法学部/大学院法学研究科 千葉 恵美子 先生

今回のWebCT活用事例は,名古屋大学法学部/法科大学院の千葉先生をご紹介させて頂きます.
今回のテーマは,反復学習による基礎学力の効率的育成です.
「法学部は分野も広く,扱う社会事象もさまざまなので,基礎学力が欠けると,先がない.つまり展開,応用ができない. また,他分野にも波及する.従って,毎回の講義,1つ1つの講義で基礎学力がついているかを確認しながら進めていくことが重要.このような状況において,WebCTのテスト機能が非常に役に立つと考えた」とWebCT導入の背景についておっしゃいます.

今回のWebCT活用事例は,名古屋大学法学部/法科大学院の千葉先生をご紹介させて頂きます.
今回のテーマは,反復学習による基礎学力の効率的育成です.
基礎学力と聞かれると,大学の一般教養のようなものをイメージされる方もいらっしゃるかと思いますが,ここでは法律基本科目のことを指し,具体的には民法,刑法,憲法,商法,行政法,民事訴訟法,刑事訴訟法のことで,一般の方にとっては非常に難解な“基礎”学力であります.

法科大学院とは?

現在,千葉先生は名古屋大学の法学部と法科大学院の両方の学生を担当なさっていますが,特に後者の方でWebCTを大変有効に活用なさっています.
本題に入る前に,法科大学院についてあまりご存知ない方もいらっしゃると思いますので(私もその一人 ^^;),まず始めに法科大学院について簡単にご説明します. 法科大学院についての詳細は,名古屋大学法科大学院のHPや,司法改革と法科大学院ついてのサイトなどをご覧下さい.

法科大学院とは?(既に法科大学院をよくご存知の方はこの表の下から読み始めて下さい)
  • 法科大学院は,法律の知識がなくても適正試験と小論文にパスすれば誰でも入学できる.
  • 法科大学院を卒業すると,難関である司法試験を受けなくても自動的に弁護士や検察官になれるという誤解もあるが,法科大学院を出ても,司法試験に合格してなくてはいけない.
  • 法科大学院を卒業した人が受ける司法試験を,従来の司法試験と区別して,新司法試験と呼んでいる.両者は平行して実施される.(第一回の新司法試験は再来年の5月)
  • 受験後,同じ試験を5年間に3回まで受験できる.前回の試験で合格しなかった人が後々累積していくので,合格者が徐々に減っていく.
  • 大学の法学部とは異なり,法科大学院では実務家(裁判官・検察官・弁護士)の養成を目標としている.
  • 3年コースと2年コースがあり(*注1),3年コースでは1,2年に法律の考え方,基本的な知識全体を身につけ,基礎知識を習得した後,弁護士,裁判官,検察官として現実の紛争を扱う臨床的な学習まで行う.
  • 2年コースは,入学時に既にある一定のレベルに達している者が1年の期間短縮を行うコース.
  • 従来の司法試験制度では,試験に合格した学生が司法研修所に行って1年半の研修を行うが,その研修所の前期教育を法科大学院で行う.
  • 従って,従来司法研修所でやっていた教育も新司法試験の試験対象となる.
  • 法科大学院=従来の司法試験の知識+臨床的学習である.
  • 民法,刑法,憲法,商法,行政法,民事訴訟法,刑事訴訟法はあくまで基礎な法律であり,実務法曹になるためには、これらの法律についての知識を当然抑えた上で、応用力と臨床的能力が必要になる.
  • 医学部の医師国家試験は,達成度試験であり,問題が解ければ全員合格できるが,司法試験の場合は,3000人/年(*注2)と合格者の総数が決まっている.
  • 当初,法科大学院を卒業した場合の司法試験の合格率は7割と言われていたが,それにははるかに及ばないことがはっきりしている.

つまり,法科大学院は,従来試験合格後に司法研修所で行っていた臨床的学習の一部までが3年間のカリキュラムに盛り込まれ,学ぶべきことは非常に広範囲に渡る.それにも関わらず,法律の知識がない人でも入ることができるため,臨床的学習の前段階までに非常に短期間で多くの法律基礎知識の習得を必要とする.かつ新司法試験の合格を目指すという非常にハードルの高い底上げを必要とする場所であり, 言い換えると,法科大学院では、臨床学習を行えるようにするための基礎教育をいかに効率よく実施するかということが大きな課題であり,かつ悩みどころであると言えるかと思います.
このような法科大学院において,「WebCTはまさに,基礎知識の効率的な学習に非常に役立つ」と千葉先生はおっしゃいます.

紙ベースのテストからWebCTの利用へ

千葉先生は,もともと法学部の授業で,20年前もから紙ベースのテストを実施されていました. これは,前回までの内容を復習するため,授業の中で5択問題として出題するもので,毎回テストを実施して復習をさせるというコンセプト自体は以前からお持ちでした.
「これで,学生の履修度を知ることができるし,学生は授業中のテストということで,しっかり勉強し,それなりの緊張感をもってのぞむため,基礎学力の定着に効果がある」とおっしゃいます.
このように,千葉先生はテストを効果的に利用して基礎科目を効率良く学習するかということに,以前から取り組んでおられ,紙ベースのテストを用いたやり方に関するノウハウは既に十分な蓄積をお持ちでした.
そんな千葉先生がWebCTを使い始めるようになられたきっかけは,法科大学院でも医学部と同様に臨床学習の制度が取り込まれるようになったことだとおっしゃいます.
医学部では2005年度から適正試験が導入され,臨床にいけるかどうかを判断するようなしくみができ,また臨床を参加型にして,実際の医者と同じ立場でトレーニングを受けるように変わっていきます.
法科大学院の場合,まず法科大学院には法学部の知識がなくても法科大学院に入れるのですが,わずか3年間で全てを身に付けなくてはいけません. 1,2年は法律の考え方,基本的な知識全体を身につけ,これをベースにして,臨床的学習を行います.つまり,実務家として,弁護士,裁判官,検察官といった現実の紛争を扱う専門家として活動するための学習をするのです.
「このためには,基本的な法律知識をしっかり身につける,しかも基本6法すべてについて身につける必要がある.しかし,これを従来法学部でやっていた講義の形や成績の評価で行っていたのではダメで,効果的な学習方法が必要」と千葉先生はおっしゃいます.
従来の法学部のやり方では,定期試験により0か50か100かを判定し,ダメだった場合は単位認定されず残念でしたということで終わっている. しかし,法科大学院のように将来的に年間3000人の合格者が輩出され,かつ現在6000人を超える学生がいるようなところで法学部と同じやり方をやって いては、基礎学力に欠陥がある学生が多くなる.もっと効果的な教育手法が必要であり,基礎知識をいかにして積み上げて体系だって理解させるかが重要とおっしゃいます.
「法学部は分野も広く,扱う社会事象もさまざまなので,基礎学力が欠けると,先がない.つまり展開,応用ができない. また,他分野にも波及する.従って,毎回の講義,1つ1つの講義で基礎学力がついているかを確認しながら進めていくことが重要.このような状況において,WebCTのテスト機能が非常に役に立つと考えた」とWebCT導入の背景についておっしゃいます.
法科大学院発足当初は,法学部で独自のシステム開発を試みられた時期もあったそうですが,当時はまだ法科大学院で,どういう教育をするのか決まっていなかったため,独自のシステム開発はうまくいかなかったそうです.
そんな折,既存のもので使えるものがないかということで探されていたところ出会われたのが,当時既に名古屋大学に導入されていたWebCTだったというわけです.

WebCT導入の効果

このように,千葉先生は去年から紙ベースのテストから,Webベースのテストへと移行され,WebCTの効果について,「紙ベースのテストをWebで置き換えれば,それなりの効果があることは容易に想像できるが,それ以上の効果があるように思われる」とおっしゃいます.
予習は,法科大学院で独自に開発したシラバスシステムを利用され,復習のところでWebCTのテスト機能を活用なさっています.
従来との一番大きな違いは,従来は授業中のみにテストを実施されていたのに対し,WebCTを利用されるようになってからは,授業時間外に自由にテストを 受験できるようにされたことです. 一度に複数の問題を出し,5回までトライしてもいいというルールになっており,学生は分からないところを何度も挑戦し,徹底的にやるようになったとおっ しゃいます.学生は,自分の正解率が低く,問題が不得意ならば解説を読み,それでも分からない場合は教科書や講義ノートを読み返して再トライする.ほとん どの学生が5回以内で達成しているとのことです.
WebCTを利用すると,その他に,成績の評価機能も重要で,これによって学生は自分の弱いところが瞬時に分かるだけでなく,テストの統計情報を見ることで理解していないのは自分だけだというのが分かるため,大変刺激にもなるし,周りに聞くこともあるとおっしゃっています.
学生からは,テスト機能について,常時そういうサービスを提供して欲しいという声もあり,学生としても教育効果が上がるシステムという認識があるようですとのこと.
単純な比較は難しいがと前置きなさった上で,従来の授業中のテストを実施する方式と比べ,緊張感はなくなったが,Webならば時間と場所を選ばないので,学生が何度でもトライできることで,達成度という点では,平均的学力は向上したとおっしゃいます. 「WebCTならば,どこでもできるので,ここが弱いなと思った時に,すぐテストが出来る.このように反復学習で基礎知識を習得することにより,定期試験では,より高度な問題を出すことができる.これが効果としては一番大きい」とWebCTの効果についてお話頂きました.
このように,WebCTは学生の基礎知識の習得に役立っているわけですが,同時に先生にとっても,大量の学生がある問題について解けない場合,自分の教え方がまずかったのではないかとも考えられるので,次回の講義で,その辺に詳しい説明を追加するなどのフィードバックができるといったところで有用だとおっしゃいます.
また,基礎知識の効率的な習得という点については,名大法科大学院に限らず他の法科大学院についても,共通の悩みがあるので,このような教育効果が上がることについて話をすると,他でもやってみようということで拡大しているとのことです.
「ITツールを他大学などにも紹介する機会があり,WebCTの話をすると,他の法科大学院でもあった方がいいという声がある.臨床に行く前に,学力が到達しているか,確実に確認することが必要であり,そのような意味で,これは多くの大学院で必要だと感じている.この方法としてWebCTという選択肢があるが,まだ改善の必要もある」とおっしゃいます.
千葉先生はこのようにWebCTを復習に利用されていますが,予習でテスト機能を使う先生もいらっしゃって, こちらのケースでは,事前に本を読んで予習させ,授業の始めにテストを実施して,学生が理解しているところと理解してないところを調べた上で,理解していないところを重点的に教えるというやり方をなさっています.

WebCTの定量的な効果

また,千葉先生は,WebCTを用いて基礎学力の習得ということを見事に達成しているという点を,以下のように定量的にお話頂きました.
入学の時にガイダンスをして,民法の基本的な5択問題を10題出されたところ,

  • 2年コースは7割以上の正解率
  • 3年コースの法学部出身は5.5割の正解率
  • 全く法律を学んだことがない学生の正解率が2割

であった.5択問題なので2割という正解率は全く分かっていないことに等しい状態です.
入学時にはこのような状態なのですが,上述のような反復学習により,なんと,これが1年後には3年コースの法学部出身者,全く法律を学んだことがない学生共に7.5割までアップし,両者の差はほとんどなくなるという素晴らしい結果を得られています. この7.5割という到達度は,2年コースの学生の入学時の正解率に並んでいるわけですから,3年コースの学生が1年後に2年コースの学生のレベルに追いついているということが言え,初年度の目的を十分に達しているということになります.
WebCTでテストを実施するようになって一番うれしかったのは,このような形ではっきりと結果が得られたこと
だと千葉先生はおっしゃいます.
これは,基本的な問題だけについての結果であるが,基本事項については少なくとも差がなくなったことがはっきりと言える.これは非常に重要なことだと千葉先生はおっしゃいます.法律の場合は文章を書くことが大変重要で基礎知識はその前段階.しかし,この基礎学力が欠けると,先に進めないからだそうです.
更に,WebCT を利用することのメリットとして,「法学部の正規授業で法律を勉強した学生とそうでない学生がいて,2クラスに分けて講義をしている.2クラスに同じ問題を出して比べていくと,法学部を出ている学生はどの辺が分からなくて,出ていない学生はどの辺が分からないかが分かる.これを何回もやると,両者の間の差が縮まってい き,どの辺をどう努力したらどんなふうに学力の差が縮まっていくかが分かる」と解析機能のメリットも挙げられます.

現行の司法試験と新司法試験

ちょっとWebCTの話から逸れますが,現行の司法試験と法科大学院を卒業して新司法試験を受ける場合の違いについてお尋ねしました.
「新司法試験と司法試験は決定的に違うのは,新司法試験では、法科大学院を卒業することが受験資格となること.現行の司法試験の場合,受験資格はなく,試験に合格した学生が司法研修所に行って1年半の研修を行う」とのことです.
「現行試験合格者と新司法試験合格者を比べ,色々な人が色々なことを言っているが,どちらの合格者の質がよくなるのかについては、これは誰にも分からない. 平成18年度は1600人の合格者となると思うが,現行司法試験合格者を多くした方がいいのではという話がある.これは,多くの人が法科大学院生の質が低下するのではない かということを心配しているためである」と現状について述べられた上で,
「重要なのは,そのような心配をしている方に対して,安心感を与えるような教育を法科大学院でするべきだと考えており,WebCTはまさにそのために必要なツールだと思う」と,教育効果を外の人に対して示す場合にも,WebCTのようなツールが有効だとおっしゃいます.

WebCTを使い始めた頃は...

さて,これまでご紹介してきましたように,WebCTのテスト・解析機能を有効活用されている千葉先生ですが,実際に使い始められた頃は,とにかくマニュ アルが不足していて大変ご苦労なさったとか.
「WebCTは大変多機能のため,福袋の中にたくさんのものが入っていて,自分の欲しいのはどの部分で,それをどうやって使ったら自分の講義の役に立つのか.自分のやりたいことを見つけるのが大変だった」と1年前のご苦労をお話頂きました.
現在では,マニュアルの方も徐々に整備され,また法科大学院から見て逆引きマニュアルとはどういうものかを法学研究科の院生とともに研究されているということで,WebCTの利用環境の方は次第に整いつつあるとおっしゃっています.

今後の発展ビジョン

現在WebCTのテスト機能を使って,ここまでご紹介したような成果を挙げてこられた千葉先生に,今後の展開についてお聞きしたところ,「今後,発展的に利用しようと思っているのは授業評価の集計,分析.アンケート機能」とのことでした.
また,「法律学は討論の学問なので,お互いに文章を添削したり,専門的な意見を交換する場が必要である.WebCT上のディスカッション機能を更に発展させたも のが必要で,スタディグループ支援システム,文章作成能力を高めるシステムなどを考えている.これらを組み合わせてよりよいものを作りたい」と更なる発展にも意気込み十分な千葉先生です.
「さらに,司法試験に合格したら終わりではなく,合格後も先進的な知識が必要となる.卒業後も法科大学院が学びの家としての役割を果たすようにしたい」とおしゃいます.そのために,学生の全ての成績をe-portfolioに蓄積し,個別情報をトータルなものとして分析できる状況にして,今後の授業改善に役立てるとともに,自分は何が得意で,何が分からなくて,今自分がどういう状況にあるのかことを総体的に把握できるような「成績カルテ」を作って,学生に還元するシステム が必要だと今後の展望についてもお話をされていました.

大変お忙しい中,インタビューに応じて頂きました千葉先生に,この場を借りて御礼申し上げます.今回は,司法制度の話など,特に私に馴染みのない分野の話でしたが,背景のお話から大変ご丁寧に教えて頂きました.ご協力まことにありがとうございました.

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補足説明

* 注1:この二つのコースの設計には、大別すると2つの方式があり、それによって違いがあります. 1つは,名大・早稲田などの方式で,大卒のみを受験資格とし,適性試験と小論文で合格者を決め,その中の希望者がすでに法律的な基礎知識は取得しているとして1年の期間短縮をしてもらう仕組み(既修者認定)です.既修者認定を受けた人を2年コースと呼んでいます.
もうひとつは、東大・京大・慶応などが採用している方法で、入学試験の入り口のところで,既修者コース(2年)と未修者コース(3年)に分けて合格者を決 める方式です.この方式では,既修者コース(2年)の入学試験に適性試験と法律基本科目(憲法・民法・刑法・商法・行政法・民事訴訟法・刑事訴訟法の6科目の大学が多い)との試験が課せられます.

*注2:司法制度改革審議会の意見では,「法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である」としており,これを受けた司法制度改革推進計画(平成14 年3月19日閣議決定)では,司法制度改革審議会意見を踏まえ,平成14年に1,200人程度,平成16年に1,500人程度に増加させ,さらに法科大学 院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには3,000人程度とすることを目指すとされています.
新司法試験が開始する平成18年度の合格者予定者数は1,600人で,平成23年度(実質は22年度)までは,現行の司法試験,つまり法科大学院の卒業を必要としない試験が平行して行われることになります.

雑談

WebCTとは全然関係ありませんが,今後弁護士が増えると米国のような訴訟社会になるのでは?と一人で勝手に心配している私に,以下のようなコメントを頂きました.
「日本は国民一人に対する弁護士の数が非常に少なく,地域によっては司法的なサービスが十分に受けられない.これは,権利を擁護する人が周りにいないということであるから,国民にとっては弁護士が増えた方がよい.裁判官は過労死寸前である.裁判官が担当する事件数が多すぎるということは,国民にとってサー ビスが低下するということ」
「今後,裁判員制度により,国民が無作為に抽出され,裁判所において国民として義務を果たすことが期待されているが,身近なところで法律に関する知識を知る機会がり,気軽に相談できるような人がいるというのは望ましい環境だと思う.司法試験合格者は500人/年の合格者であったものが,法科大学院ができることで3000/人にまで増えるが,米国のようには増えないと思う.救急車の後を弁護士がついてくるというような事態にはならないでしょう」とのことでした.

文責:エミットジャパン 小村道昭
(2005年 3月)